知覚過敏とは、歯の表面のエナメル質が薄くなることや歯の表面から2番目の層である象牙質(ぞうげしつ)が露出したためにしみる症状です。
歯の表面にはさまざまな刺激から守ってくれる、硬い組織のエナメル質があり、エナメル質の下には歯を支えるやわらかい組織の象牙質があります。象牙質はちょっとした刺激で痛みを感じるため、エナメル質が薄くなったり、削れて象牙質が露出したりすると、しみる症状を感じるようになります。
はじめに
歯がしみる症状を体験したことがある方は、多くいらっしゃるのではないでしょうか。冷たいものや熱いものを口に含んだときや歯磨きする時などにその症状は現れ、原因がわからないと不安になりますよね。歯がしみる症状にはさまざまな原因があります。
本記事では、歯がしみることについての原因や対処法、しみる症状が出る前にできることについて詳しく解説します。現在すでに歯がしみる症状がある方や症状が出る前に対策したいと考えている方は、是非とも最後までご覧いただき、参考にしてください。
歯がしみる症状の3大原因
歯がしみる症状の原因には、大きく次の3つがあります。
- 知覚過敏
- 虫歯
- 歯周病
一つずつ、詳しく紹介します。
1:知覚過敏(ちかくかびん)
しみる症状の特徴
- 冷たいものや熱いもの、甘いものを口に含んだときに痛みが出る
- 風があたることや歯ブラシの毛先があたるときに痛みが出る
- 痛みは一時的なもの
- しみる歯を叩くと痛みがない
知覚過敏になる原因
- 歯磨き粉の研磨剤によってエナメル質を削ってしまう
- 強いブラッシング圧によってエナメル質を削ってしまう
- 歯ぎしり・食いしばりによって歯に負担をかけ、歯が欠ける・ヒビが入る、削れる原因になる
- 酸性の飲食物の過剰摂取によって歯が溶けてしまう
- 歯が欠けている・割れている
- 歯周病・加齢によって歯ぐきが退縮してしまい、根っこ部分の象牙質が露出する
2:虫歯
虫歯によって歯がしみるのは、虫歯が進行するとエナメル質や象牙質を溶かし、象牙質や神経が露出するためです。
虫歯の原因は、細菌のかたまりで形成された歯垢(プラーク)です。プラークは適切な歯磨きができていない場合に食後おおよそ8時間で形成され、歯の表面に付着します。虫歯菌はプラークに含まれた糖分をエサにして歯を溶かす酸を作り出し、エナメル質が溶けて象牙質が露出すると、刺激を受けてしみる症状が出ます。
しみる症状の特徴
- 冷たいものや熱いもの、甘いものを摂取すると痛みが出る
- 痛みが持続する
- しみる歯を叩くと痛みがある
- 歯の色が黒や茶色っぽくなっている、穴が空いている
知覚過敏と虫歯の歯がしみる症状はほとんど同じですが、知覚過敏は痛みを感じてからすぐに症状が治まり、虫歯は痛みを感じてから少し持続することが特徴です。
虫歯が原因でしみる症状を感じている場合は、虫歯治療をすぐに受けましょう。放置すると虫歯は進行し、神経を抜く治療が必要になり、最悪の場合歯を失う原因にもなります。
虫歯の痛み虫歯になる原因
- 正しい歯磨きができておらず、プラークが口腔内に多く残っている
- 歯石を歯科医院で除去せず放置している
- 糖分の過剰摂取
- 時間を決めずにダラダラ食べている
- 唾液が少ない
- 過去に治療した歯が多くある(一度虫歯した歯は、再度虫歯になるリスクが高い)
3:歯周病
歯周病によって、歯ぐきが下がると象牙質が露出してしまい、歯がしみる症状がでます。
歯周病とは、歯と歯の間に細菌が入り込んで炎症を起こし、進行すると歯を支えている骨を溶かしてしまう病気です。歯がグラグラになってしまい、抜けることもあります。
歯周病が進行すると、歯ぐきが少しずつ下がって根っこの部分が見えます。
歯の根っこにはもともとエナメル質がないため、象牙質が露出してしまい、知覚過敏を引き起こします。
しみる症状の特徴
歯周病によって歯ぐきが下がることで知覚過敏を引き起こしているので、しみる症状は知覚過敏と同じです。
- 冷たいものや熱いものを口に含んだときに痛みが出る
- 風があたることや歯ブラシの毛先があたるときに痛みが出る
- 痛みは一時的なもの
- しみる歯を叩くと痛みがない
歯周病になる原因
歯がしみるときの対処法
歯がしみる症状の原因はそれぞれ異なります。原因の特定は自己判断できないので、歯科医院を受診しましょう。
ここでは、歯科医院の受診を前提として、自分でできる対処法と歯科医院で施す処置について紹介します。
自分ができる対処法(知覚過敏の場合)
知覚過敏の場合、次の対処法があります。使用するアイテムについては、歯科医院での相談をおすすめします。
歯磨き後にフッ素ジェルを使用する
唾液には、酸で溶けてしまった歯を修復する働きがあり、これを再石灰化といいます。
フッ素は再石灰化を促す働きがあるので、露出した象牙質を再石灰化によって埋めることで、知覚過敏の症状が和らぐことがあります。
歯磨き後にフッ素ジェルを歯に塗り込んで使用しましょう。使用後30分は、飲食を控えることが大切です。
硝酸カリウムが含まれた知覚過敏用の歯磨き粉の使用
硝酸カリウムが含まれた知覚過敏用の歯磨き粉を使用すると、しみる症状が軽減されます。硝酸カリウムが歯の神経の周りにバリアを作るためです。
歯磨き粉の使用をやめると、再びしみる症状が出てきてしまうことがあります。
歯磨き後にCPP-ACP配合のペーストを使用する
CPP-ACP配合のペーストの使用も、しみる症状を軽減できるでしょう。CPP-ACPは牛乳由来の成分です。CPP-ACPに含まれている、リン酸カルシウムがエナメル質や象牙質の隙間を埋めてくれるため、痛みを軽減できます。
代表的な商品では、MIペーストがあります。歯磨き後にペーストを歯に塗り込んで使用します。使用後30分は、飲食を控えましょう。
CPP-ACPは牛乳由来の成分のため、乳製品に対してアレルギーを持っている方は使用できませんので注意してください。
歯科医院を受診する
歯科医院ではお口の中の状態を確認し、歯がしみる原因を特定します。虫歯や歯周病が原因だった場合は、それぞれの治療を進めます。知覚過敏が原因だった場合は、次のような処置をします。
フッ素塗布
歯科医院で受けるフッ素塗布は、自宅で使用する歯磨き粉や歯みがきジェルに比べて高濃度です。
自宅で使用する歯磨き粉や歯みがきジェルなどのフッ素濃度は最大1,500ppmF以下と定められており、1,450ppmF程度の商品が販売されています。
歯科医院で塗布するフッ素濃度は9,000ppmFです。
歯科医院で高濃度のフッ素塗布によって、再石灰化を促すよう歯にしっかりアプローチすることが大切です。定期的な塗布が必要なため、頻度は歯科医師の指示に従いましょう。
引用元:厚生労働省e-ヘルスネット:フッ化物配合歯磨剤
専用の薬剤で歯をコーティングする
露出した象牙質を専用の薬でコーティングし、外部からの刺激を遮断して痛みを軽減する効果を期待できます。
効果は徐々に薄れていくので、定期的に塗布する必要があります。頻度は歯科医師の指示に従いましょう。
マウスピース(ナイトガード)の作製
歯ぎしりや食いしばりから歯を守るために、マウスピースを作製します。
毎晩装着して寝ることで、歯ぎしりや食いしばりによるダメージから守り、知覚過敏の悪化を防ぎます。
露出している象牙質を埋める
象牙質が露出してしまっている部分を、プラスチック製の樹脂で埋めます。
象牙質を覆うことで、刺激を遮断できるため、痛みが軽減されます。
最悪の場合神経を抜く
しみる症状は一時的であり、歯の神経を抜くと歯が弱くなってしまうため、知覚過敏が原因で歯の神経を抜くことはほとんどありません。
しかし、しみる症状が全く治らず日常生活に支障が出てしまう場合には、歯の神経を抜くことがあります。
歯がしみる症状が出る前にできること
歯がしみる症状のリスクを低減するには、次の4つのポイントを日常的に取り入れるとよいでしょう。
歯磨きをしっかりする
虫歯や歯周病のリスクを下げるために、毎食後の丁寧な歯磨きでプラークをしっかり除去しましょう。
特に歯と歯の間や、歯と歯ぐきの境目、被せ物をしているところは歯ブラシが届きにくく、磨き残しが多くなります。
歯間ブラシやデンタルフロス、タフトブラシなどを歯ブラシと併用するとよいでしょう。
歯磨き粉とブラッシング方法に注意
研磨剤を使用した歯磨き粉は、力を入れてブラッシングするとエナメル質を削り取ってしまう原因になります。研磨剤が無配合の歯磨き粉の使用や、やさしいブラッシングを心がけて、歯に負担を加えないよう注意しましょう。歯ブラシの毛先がすぐに広がってしまう方は要注意です。
就寝時はマウスピース(ナイトガード)を使用する
私たちは日常生活で無意識のうちに歯を食いしばっていて、寝ている間も食いしばりや歯ぎしりをしていることがあります。
就寝時はマウスピースを装着して、歯が削れることやヒビが入ることを防ぎましょう。
ナイトガード
定期的に歯科医院でクリーニングを受ける
定期的に歯科医院でクリーニングを受けることはとても大切です。
毎日の歯磨きではプラークを除去しきれず、歯石も少しずつ蓄積されます。蓄積された歯石は自分で取り除けないため、歯科医院で除去する必要があります。
定期的なクリーニングは、虫歯や歯周病などの問題が起きたときに、すぐに対処できるメリットもあります。
また、ブラッシング指導を受けると精度の高い歯磨きができるようになり、自分に合ったデンタルケアグッズのアドバイスも受けられます。
歯のクリーニングまとめ
知覚過敏や虫歯、歯周病によって歯にしみる症状が出ます。原因は人それぞれなので、自己判断して放置してしまうと、最悪の場合歯を失ってしまうこともあります。
歯がしみると感じたら、まずは歯科医院で相談しでみましょう。早い段階で適切な処置していくことが大切です。
当院では、患者さまの歯がしみる原因に合わせて、適切な処置やアドバイスを行なっています。お気軽にご相談ください。