現代人はストレスに多くさらされていると言われますが、ストレスはお口の中の健康にも大きな関わりがあります。
ストレスが多い生活を送っていると、お口周辺の健康にもトラブルを起こしやすくなり、生活の質の低下が考えられます。
今回は、ストレスが原因で起こるお口の中のトラブルを紹介し、その対処法について解説していきます。
はじめに
ストレスが原因で起こる口腔内への影響
ストレスを抱えていると、次のような状態が起こりやすくなり、お口の健康に悪影響になります。
- 唾液量の減少
- 食いしばりや歯ぎしり
- 免疫力の低下
- 不規則な食事や過食
それぞれについて詳しく解説していきます。
唾液量の減少
お口の中は絶えず唾液が流れており、唾液は身体やお口の健康にとって多くの重要な役割を担っています。
ストレスは、唾液量を減少させてしまうため、唾液の働きを十分に受けることができなくなってしまいます。
<唾液の役割>
- 湿潤作用
- 消化作用
- 咀嚼、嚥下作用
- 味覚作用
- 自浄作用
- 再石灰化作用
お口の粘膜を潤して、お口を滑らかにする働きです。
硬いものを食べてもお口の中が傷つかないのは、唾液の湿潤作用によるものです。
唾液中にはアミラーゼという消化酵素が含まれています。
アミラーゼは糖質を分解して、体内に吸収しやすい状態にする働きがあります。
食べ物を咀嚼して飲み込む時、唾液と混ざることで、飲み込みやすい食べ物の塊を作ります。
味を感じるのは「舌」というのは知っている方が多いと思いますが、その舌に味を伝える役割をしているのが「唾液」です。唾液がないと味覚も感じづらくなります。
唾液がお口の中を流れていることで、お口の中の汚れを自然に洗い流す働きが作用します。
虫歯菌が出した酸によって、歯の成分であるミネラルやカルシウムが溶け出しますが、唾液はその成分を再び歯に取り込み、修復する作用があります。その作用のことを再石灰化作用と言います。
唾液はこのようにたくさんの働きがあります。
ストレスにより唾液が減少すると、唾液が十分な働きをすることができなくなり、お口の中に様々なトラブルを引き起こします。
食いしばりや歯ぎしり
寝ている時に無意識にぎりぎりと歯を動かしてしまう「歯ぎしり」や「食いしばり」はストレスが原因になっていることがあります。ストレスだけが原因ではなく、かみ合わせなど別のところに問題がある場合もあります。
食いしばりや歯ぎしりは、歯に大きな負荷がかかります。
歯自体がすり減ってしまったり、最悪の場合は破折の原因になることもあります。
また、歯の周囲の組織を傷める原因にもなります。
免疫力の低下
ストレスを抱えていると、免疫力の低下を招くことがあります。免疫力が低下すると、お口の中の細菌の活動が活発になり、虫歯や歯周病などのトラブルを起こしやすくなります。
普段は痛みがなかったところが、急性的に痛み出すこともあります。
不規則な食事や過食
ストレスを抱えていると、不規則な食生活や過食傾向になる事があります。
虫歯は、糖分などの食べ物が大きく影響しています。
間食の回数が増えたり、ダラダラと飲食をするようになると、虫歯のリスクが高くなってしまいます。
ストレスが原因で起こる口腔内のトラブル
ストレスでお口の中の環境が変わることで、様々なトラブルを起こしやすくなります。
具体的なトラブルの例を紹介していきます。
虫歯
ストレスによる唾液量の減量や、免疫力の低下による細菌の増殖、不規則な食事は虫歯のリスクを高めてしまいます。
通常時よりも細菌が活発になり、虫歯を作ってしまいやすいので注意が必要です。
穴が空いてしまった虫歯は、自然に元に戻ることはありません。必ず治療が必要になります。
虫歯の治療をしっかりと行い、再び虫歯を作らないよう虫歯予防をしながら、ストレスの解消に努めるようにしましょう。
虫歯歯ぐきの腫れやうずき
免疫力が低下することにより、通常時は症状が現れていなかった病巣が腫れたりうずいたりすることがあります。
次のような状態がある場合には、歯ぐきの腫れやうずきを感じることがあるでしょう。
・完全に萌出していない親知らずがある
親知らずが斜めに生えていたり、半分歯ぐきに被っている場合には、周囲に汚れが溜まりやすくなります。
通常は問題なく過ごしていても、ストレスなどで免疫力が低下すると、周囲に溜まった細菌が活発になり周囲に炎症を引き起こすことがあります。
「智歯周囲炎」と言われるものです。周囲の清掃をして、抗生物質を飲むなどして対応します。
腫れを繰り返している親知らずは、抜歯を検討しても良いでしょう。
その場合は、炎症が起きていない時に処置を行います。
・歯周病で歯周ポケットが深いところがある
歯周病があり、歯周ポケットが深くなってしまっている部位があると、そこに細菌が溜まりやすくなります。
免疫力が低下している時に、急性的に炎症を起こして腫れたりうずいたりすることがあります。
歯周病の治療を継続して歯周ポケットを引き締め、汚れが溜まりにくい環境にしていくことが大切です。
・歯の根の先に病巣がある
歯の根の先に膿を溜めていたりすると、免疫力が低下した時に腫れやうずきを起こすことがあります。
普段は何の症状も出ていないことも多いです。レントゲンを撮って初めて病巣に気が付くこともあります。
定期検診等で時々レントゲン撮影を行い、病巣がないかチェックをしてもらうのが良いでしょう。
歯の根の先に病巣がある場合には、歯の根の治療などを行い治療をしていく必要があります。
歯周病
免疫力の低下などにより、歯周病は進行しやすい状態になります。
通常時よりも細菌がカッ活発になるため、歯ぐきが赤くなったり、腫れたりするのを感じる事が増えます。
歯磨きをした時に出血を感じることも多いでしょう。
歯ぎしりや食いしばりが増えていると、歯周病の進行の要因にもなります。
炎症を起こしやすい状態になるので、家での丁寧なブラッシングと、歯科医院でのクリーニングを行いながらストレスの解消に努めるのが良いでしょう。
歯ぎしりや食いしばりが気になる場合には、夜間に歯ぎしり用のマウスピースを装着すると影響が少なくなります。
口内炎
免疫力の低下により、口内炎ができやすくなります。通常の口内炎は数日で自然に治ってきますが、ストレスが溜まっている場合には、口内炎を繰り返してしまうことがあります。
原因がストレスだけであれば問題はありませんが、他に原因があり口内炎を繰り返してしまう場合には注意が必要です。ウイルス感染や他の病気が隠れている可能性もありますので、必ず歯科医院に相談するようにしましょう。
口臭
ストレスで唾液が減少すると、口臭が強くなります。
口臭には様々な原因がありますが、お口の中の潤いが少ないと、細菌自体が発する臭いが強くなります。
また、歯周病や虫歯がある場合には、組織が傷んだ臭いも合わさって強い臭いになることがあります。
水分をしっかり補給し、原因となる虫歯や歯周病ある場合には、治療を進めるようにしましょう。
ストレスから口腔健康を守る対策
ストレスから口腔健康を守るためには、根本的にはストレスをしっかりと解消することです。
それと並行して、トラブルを起こしている箇所の治療を行なっていきます。
歯ぎしりや食いしばりがひどい場合には、歯ぎしり用のマウスピースで対策をしていくのが良いでしょう。
ストレス解消ができる生活
ストレスの解消法は人それぞれですが、口腔や身体の健康のことを考えると、暴飲・暴食などによるストレスの解消は避けた方が良いでしょう。
おすすめのストレス解消法には次のものがあります。自分に合った方法を見つけておくと良いですね。
- 日光を浴びる
- 身体を動かす
- ストレッチをする
- 趣味や創作・作業などに没頭する
- 湯船にゆっくり浸かる
- 睡眠をしっかりとる
- 休息をしっかりとる など
人によってはカラオケなどで大声を出したり、お笑い番組で笑ったりするのが解消になるかもしれません。
ストレスは大病の元になります。健康的にストレスを解消できる生活を送っていけると良いですね。
栄養をしっかり摂る
ストレスで免疫力が低下している場合には、栄養をしっかり摂ることも大切です。
規則正しい食事、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
ストレスが溜まっていると、食生活が乱れたり過食の傾向になってしまうことがありますので、悪循環に陥りがちです。
意識して食生活を整えていきましょう。
唾液量減少の対策
唾液の分泌をよくするためには、食事をする時にしっかりかむことや、水分補給をしっかりとすることが大切です。
また唾液が出る唾液腺周辺のマッサージも効果的です。
「顎下腺」「耳下腺」「舌下腺」という大きな唾液腺があるので、その周辺を優しくマッサージすると唾液が分泌しやすくなります。
<唾液腺マッサージの場所>
- 顎下腺
- 耳下腺
- 舌下腺
下顎の横の骨の下あたりです。数本の指で優しく押し上げるようにして、マッサージをしましょう。
耳の前で、頬骨の少し下あたりです。両手の指の先を使ってぐるりと円を描くように、マッサージしましょう。
下顎の前方、顎の先の真下あたりです。両手の親指を使って優しく押し上げるようにマッサージをしましょう。
食いしばりや歯ぎしりの対策
食いしばりや歯ぎしりがある場合には、歯ぎしり対策用のマウスピースを装着して寝るのがおすすめです。
歯ぎしりは歯科治療をすべき症状ですので、保険適用でマウスピースを作ることができます。
型取りをして自分専用のマウスピースを作ることで、歯ぎしりで自分の歯を傷めてしまうのを予防することができます。
市販のマウスピースもありますが、自分の歯並びにフィットしていないと、かみ合わせなどに悪影響が出てしまう可能性があるので、できるだけ歯科医院での治療をおすすめします。
まとめ
ストレスが原因で起こる口腔内のトラブルを解消するためには、それぞれのトラブルを解消していくのと同時に、根本的な原因になっているストレスの解消が大切です。
ストレスの解消には様々な方法がありますが、歯科の観点からすると「甘いものを食べて発散する」のはあまり良い方法とは言えません。
虫歯のリスクが高くなってしまいます。
ストレッチをしたりよく睡眠をとるなど、適度な休息をしながら、自分に合う方法を見つけてストレスを解消していきましょう。